昭和二年に建てられた、旧日本銀行福島支店長の役宅、御倉邸。
ひとつの建物の中を、いくつもの時代が通り過ぎてきています。
今日は、その古い建物の中、着物を纏う女性たちの傍らで、コーヒーを淹れていました。
畳の部屋に着物、静かな庭、ゆらゆらと揺らぐ硝子から差し込む光、広がるコーヒーの香り。
夕方になると、阿武隈川を渡る風が、すっと庭から邸内を抜けていく。
その風がとても気持ちよくて、なんだか時間までゆっくりしているようでした。
でも時計を見ると僕の感じる時間よりも、ずっと進んでいる。時間はいつの間にか遠くまで行ってしまっている。
そのことが、妙に面白く感じました。
時計の針が刻んでいく時間と、その場所にいる自分が感じている時間。それは時に不思議なくらい離れてしまう。
御倉邸は、昭和二年から今日まで、ずっとここにある。
そのあいだに、ここで暮らす人が変わり、訪れる人が変わり、着るものも、街の姿も、世の中も変わりました。
それでも建物は、過ぎていく時間の中にありながら、静かにそこに残っています。
今日もまた、そこにはずっと流れ続ける時間が、川を渡る風と同じように過ぎて行きます。
そんな時間を、御倉邸は昭和二年から眺め続けています。
ここで淹れるコーヒーは、時間まで少しゆっくりになるような、そんなコーヒーが良いのかもしれないと思いました。
次にここで淹れる時はそんなコーヒーをお持ちします。
どんなコーヒーか、分かりませんけど…。
明日はお休みです。ご足労なきように。
